あらすじ
宇宙移民船アヴァロン号。5000人の乗客と258人の乗組員を乗せ、地球から120年離れた新天地「ホームステッドⅡ」へと向かっていました。
航行中、すべての人間は冬眠装置の中で眠り続け、目覚めるのは到着の4か月前――そのはずでした。
しかし、技術者ジム(クリス・プラット)はトラブルによって、予定より90年も早く目覚めてしまいます。周囲は静寂。船内には誰もいない。自分一人だけが目覚めているという絶望的な状況に、彼は少しずつ壊れていきます。
何をしても、誰に話しかけても返事はない。ただ無限に続く宇宙と、孤独。
そして彼は、冬眠カプセルに眠る女性作家オーロラ(ジェニファー・ローレンス)を見つけます。彼女のプロフィールを見て、映像を見て、彼は少しずつ惹かれていく。「彼女と話したい」「一緒にいたい」――その気持ちはやがてある“決断”へと変わっていきます。
見どころ①:一人きりの宇宙――孤独のリアリティ
この映画の前半は、ほとんどがジム一人のシーンで構成されています。無重力のプール、空っぽのダイニング、壊れたカフェテリアのロボット。誰もいない巨大な船内で、彼はひたすら生活を続けます。
最初は映画を観ている側も「楽しそう」と思うかもしれません。豪華な食事、巨大な展望デッキ、無重力の遊び。けれど、それがどんなに整った空間でも、「人がいない」というだけで地獄になる。
AIバーテンダーのアーサー(マイケル・シーン)との会話が唯一の癒し。でも彼は本当の友達ではない。どれだけ笑っても、会話が途切れれば再び静寂に戻る。
ジムが次第に“話す相手”を求めていく心の過程が、この映画の一番怖い部分です。派手なアクションもなく、ただ一人の男が壊れていく。そのリアルさが観る者に刺さります。
見どころ②:選択と罪――人間らしさの残酷さ
そしてジムは、究極の選択をします。“オーロラを目覚めさせる”という選択。
それはつまり、彼女の未来を奪うこと。自分と同じように、死ぬまでこの船で過ごす運命を背負わせることです。
でも、彼は耐えられなかった。孤独に、無音に、自分の心が壊れていくのを止められなかった。
この行動は、倫理的には完全に“間違い”です。でも、映画はそこを断罪しません。ジムは悪人ではなく、人間。誰もが同じ立場なら、同じように苦しみ、同じように揺れるかもしれない。
オーロラが真実を知るシーンは痛烈です。愛情が、一瞬で裏切りに変わる。観ているこちらも苦しい。でも、その後の展開がまた見事です。
見どころ③:宇宙の美しさと、静かな恐怖
『パッセンジャー』のもうひとつの魅力は、映像の圧倒的な美しさです。深い宇宙の闇、星の光、青く光る惑星、そしてアヴァロン号のデザイン。まるで絵画のように完璧な構図が連続します。
特に印象的なのが、プールのシーン。オーロラが無重力状態の中で水に閉じ込められるあの瞬間。美しさと恐怖が共存する、まさに“宇宙の不条理”そのものです。
音楽も静かで、感情を押しつけない。ただ広大な宇宙の中に、人間の呼吸がぽつんと浮かんでいるような感覚。それがこの作品の詩的な魅力です。
見どころ④:2人だけの世界――愛は孤独を癒せるのか
ジムとオーロラの関係は、恋愛というよりも「共存」の物語です。互いに頼るしかない。でも、相手にすべてを委ねれば壊れてしまう。
やがて船に再びトラブルが起き、二人は協力して危機に立ち向かいます。その中で、オーロラがジムを許す瞬間。それは“愛情”というより、“理解”です。
この映画が美しいのは、恋愛の結果を描かないところ。誰かと生きるとは何か、誰かを許すとはどういうことか。その問いを観客に投げかけて終わる。
ラストの静けさは、悲劇でも幸福でもない。ただ、「生きるとはこういうことかもしれない」と思わせる余韻が残ります。
まとめ
『パッセンジャー』はSFの皮をかぶったヒューマンドラマです。宇宙という極限の環境を使って、人間の「孤独」「欲」「赦し」を描いています。
誰も悪くない。でも、誰も正しくない。その曖昧さこそが、人間らしさの本質です。
この映画は観る人によって、まったく違う感想を持つでしょう。「怖い」と感じる人もいれば、「切ない」と感じる人もいる。でも、どんな感じ方をしてもいい。その揺らぎを受け入れてこそ、この映画は完成するのだと思います。
ジムの行動を責めながらも、どこか理解してしまう自分に気づく。オーロラの怒りに共感しながらも、彼女の寂しさにも寄り添いたくなる。そんな複雑な感情を抱かせる映画です。
人は孤独に耐えられない。でも、誰かを求めることにも、必ず代償がある。
宇宙という静寂の中で描かれる“人の弱さ”と“愛の強さ”。『パッセンジャー』は、あなたの中の「もしも」を静かに揺さぶる作品です。
作品情報
| タイトル | パッセンジャー |
|---|---|
| 原題 | Passengers |
| 公開年 | 2016年 |
| 監督 | モルテン・ティルドゥム |
| 出演 | クリス・プラット、ジェニファー・ローレンス、マイケル・シーン、ローレンス・フィッシュバーン |
| 配信 | U-NEXT、Amazon Prime Videoほか |
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