あらすじ
イーサン・ハント(トム・クルーズ)は、これまで数えきれないほどの不可能な任務を遂行してきたIMF(インポッシブル・ミッション・フォース)のエージェント。しかし、CIA長官(アレック・ボールドウィン)の命令でIMFは突然解体され、イーサンたちは組織から切り離されてしまいます。
そんな中、イーサンは“シンジケート”と呼ばれる謎の犯罪組織の存在を追っていました。彼らは世界各国の元スパイで構成された“裏のIMF”。各国政府の機密情報を利用し、戦争を操る影の集団です。
仲間のいない中で、イーサンは単独でシンジケートを追うことを決意します。そして、ある女性――イルサ・ファウスト(レベッカ・ファーガソン)と出会います。彼女は敵か味方かも分からない謎のエージェント。その正体を掴む前に、彼女は何度もイーサンの前に現れては姿を消していきます。
IMFなき今、イーサンに残されたのはわずかな仲間たちと、自らの直感だけ。命令も後ろ盾もない中で、彼は自分の信じる“正義”だけを頼りに走り続けます。
見どころ①:息をのむ潜水アクション――「3分間の無音」
この映画の最大の見せ場といえば、やはり“潜水シークエンス”。イーサンがデータを入手するために、巨大な水中タンクに潜入する場面です。
このシーン、酸素ボンベなし。時間は3分。手元のデバイスが作動しなければ、彼はそのまま窒息してしまう。
音楽が一切なく、聞こえるのは水流と心臓の鼓動だけ。その「無音の3分間」が、とんでもなく長く感じます。観客の呼吸も、イーサンの呼吸とシンクロしていく。
『ローグ・ネイション』は、アクションを“派手さ”で見せる映画ではありません。息を止める静寂の中に、究極のスリルを作り出す。これこそ、シリーズの真骨頂です。
しかもこのシーン、トム・クルーズ本人が実際に息を止めて撮影しています。事前に6分間の息止めトレーニングを積んだというのだから驚きです。リアリティがあるから、CGよりも怖い。彼が命懸けでやっていると分かるからこそ、手に汗を握るんです。
見どころ②:イルサ・ファウストという新しい“影”のヒロイン
シリーズに登場してきた女性キャラクターの中でも、イルサ・ファウストは特別な存在です。彼女はただの助っ人でもヒロインでもなく、イーサンと同じ“立場の人間”。任務と信念の狭間で揺れながら、自分の居場所を探している。
イルサはMI6(英国情報部)の二重スパイとしてシンジケートに潜入しており、彼女の目的はイーサンと一致するようで一致しない。互いに協力しながらも、どこかで裏切る可能性を感じている。その緊張感が、二人の関係を引き締めています。
イーサンがイルサに「逃げろ」と言うシーン。彼女は振り返らずに去っていく。でも次の瞬間、戻ってくる。その“感情の揺らぎ”が、この映画の核心です。
彼女のアクションも圧巻です。バイクシーンでは、まったくブレない姿勢とスピード感。“女性がかっこいい”というより、“人として圧倒的に強い”。レベッカ・ファーガソンがこの作品でブレイクしたのも納得です。
見どころ③:チームが帰ってくる――信頼のリズム
IMFが解体されたとはいえ、やっぱりイーサンの周りには仲間がいる。ルーサー、ベンジー、そしてブラント。それぞれが自分のポジションでイーサンを支えていく。
ベンジー(サイモン・ペッグ)の存在はこの作品でも重要です。前線に立つようになり、笑いだけでなく“覚悟”を見せるようになった。笑顔の裏にある緊張。それがこの映画のバランスを保っています。
チーム全員で戦うシーンが少なくても、彼らの絆は常に画面の中にある。無線越しに交わされる短い言葉の中に、積み上げた信頼がにじんでいる。
「仲間を信じる」ことが、スパイという孤独な仕事の中でどれほど難しいか。この作品は、それを静かに描いています。
見どころ④:クラシックとモダンの融合――映像の“品”が違う
監督のクリストファー・マッカリーは、これまで脚本家として数々の作品に携わってきた人物。彼が撮るアクションには“理屈”がある。カットが整理されていて、誰がどこにいるかが分かる。
特にオペラハウスでの暗殺シーンは、音楽とアクションが完璧にシンクロしていて美しい。プッチーニの《トゥーランドット》が流れる中、狙撃手たちが位置を取り、イーサンが宙を舞う。すべてが“リズム”で構成されている。
マッカリー監督がシリーズに参加したことで、『M:I』は派手なエンタメでありながら、映画としての完成度がぐっと上がりました。“かっこいい映像”から“美しい映画”へ。この転換点が、『ローグ・ネイション』です。
まとめ
『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』は、“信頼と裏切り”というシリーズの根幹を、改めて人間的に描いた作品です。
イーサンは常に命令に逆らい、上層部から疎まれる存在。でも彼の行動原理はシンプルです。「信じたい人を信じる」――それだけ。
だからこそ、彼は裏切られても動じない。信頼が一度壊れても、もう一度築き直す。それが、彼をヒーローではなく“人間”にしている。
アクションもストーリーも洗練されていながら、どこか温かい。冷たいスパイの世界で、まだ“信じること”を諦めていない男の物語。
シリーズを重ねても衰えない緊張感と、成熟した映像美。そして、イルサという新たな影。『ローグ・ネイション』は、シリーズを次のフェーズへ押し上げた傑作です。
作品情報
| タイトル | ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション |
|---|---|
| 原題 | Mission: Impossible – Rogue Nation |
| 公開年 | 2015年 |
| 監督 | クリストファー・マッカリー |
| 出演 | トム・クルーズ、レベッカ・ファーガソン、サイモン・ペッグ、ジェレミー・レナー、ヴィング・レイムス、ショーン・ハリス、アレック・ボールドウィン |
| 配信 | U-NEXT、Amazon Prime Videoほか |
