『ミッション:インポッシブル3』感想・レビュー|守るために戦うとき、人はどこまで強くなれるのか

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あらすじ

IMF(インポッシブル・ミッション・フォース)のエージェント、イーサン・ハント(トム・クルーズ)は、これまで数々のミッションを成功させてきたIMF(インポッシブル・ミッション・フォース)のエージェント。
でも今は、現場から退き、後輩の育成を担当しています。

過去の危険な日々を置き去りにして、婚約者のジュリア(ミシェル・モナハン)と穏やかな生活を送る。
その笑顔を守ることが、今の彼にとっていちばん大切な“ミッション”でした。

しかし、かつての教え子リンジーが任務中に行方不明となり、イーサンは再び現場に呼び戻されます。
相手は、冷酷な武器商人オーウェン・デイヴィアン(フィリップ・シーモア・ホフマン)。
彼の取引を止めなければ、世界規模の危機が訪れる。

イーサンはチームを率いて再びミッションへ挑みます。
けれどもその先で待っていたのは、組織の裏切り、予期せぬ罠、そして愛する人の命が狙われるという現実でした。

スパイ映画のはずなのに、どこか“家庭の匂い”がする。
『ミッション:インポッシブル3』は、派手なアクションの裏に、人間の弱さと強さが描かれた一本です。

見どころ①:静けさで支配する悪役、フィリップ・シーモア・ホフマンの存在感

悪役が怖い映画って、音や暴力ではなく“静けさ”で伝わってくるんですよね。
オーウェン・デイヴィアンはまさにそれ。

怒鳴らない。脅さない。
ただ冷たく、抑揚のない声で相手を見つめる。
それだけで、観客の背筋が伸びる。

フィリップ・シーモア・ホフマンの演技って、表情より“間”が怖いんです。
言葉の後の沈黙。
その短い数秒が、何よりも残酷に感じられる。

イーサンがデイヴィアンを尋問するシーン。
普通なら、拘束された側が怯えるはずなのに、逆なんです。
あのシーンでは、捕らえている側のイーサンのほうが動揺して見える。
まるで空気を支配しているのはデイヴィアンのほうだという錯覚に陥る。

この作品の緊張感は、ホフマンの存在がすべてと言っていいほど。
派手な爆発も、ド派手なカーチェイスも、彼が登場したあとの“静けさ”で引き締まる。
音がなくなるほど、恐怖が増していく。
そのバランスが本当に見事です。

冷酷な悪というより、感情を完全に切り離した“プロ”。
何をされても、どんな場面でも、声を荒げない。
その冷静さが、人間味のなさを際立たせている。

デイヴィアンというキャラクターは、シリーズの中でも異質です。
目的のために命を賭けるイーサンに対して、感情を持たない悪。
この対比が、『M:I-3』を単なるスパイアクションではなく、心理戦の映画にしています。

見どころ②:理由のあるアクション、走ることの意味

『ミッション:インポッシブル』シリーズといえば、トム・クルーズが“全力で走る”映画。
でも、この3作目では、その走りに「意味」があります。

イーサンが走るのは、世界を救うためじゃない。
たったひとり、愛する人を救うため。
その違いが、この映画の温度を変えている。

J・J・エイブラムスの演出は、アクションの中にちゃんと“感情”がある。
ド派手なシーンなのに、観ていて息が詰まるのは、アドレナリンより“想い”が詰まってるから。

特に印象的なのは、橋の上での襲撃シーン。
ミサイルの爆風でイーサンが吹き飛ばされる。
その瞬間、カメラがイーサンの目線に切り替わる。
観客はただ“見ている”んじゃなく、彼と一緒に吹き飛ばされる。
あの感覚がすごい。

音が消える。時間が止まる。
数秒の無音のあと、鼓膜を突き破るような爆音。
J・J・エイブラムスらしい緩急のつけ方が最高です。

それにしても、トム・クルーズの体当たり演技には毎回驚かされます。
実際に爆風の中で走り抜ける、あの表情。
痛みと焦り、必死さがリアルに伝わってくる。

この映画のアクションは、派手である以前に“痛い”。
だからこそ、観る側が感情移入できる。
イーサンが殴られるたび、撃たれるたび、こっちも息を詰める。
そのリアルさが、ただのスパイ映画とは違う緊迫感を生んでいます。

見どころ③:チームの呼吸、個の覚悟

『M:I-3』は、イーサン・ハントが「チームの一員」として動いていることをしっかり描いた作品です。

ルーサー(ヴィング・レイムス)は、シリーズを通して変わらない安心感。
常に冷静で、イーサンを支えるパートナー。
言葉が少なくても、信頼が伝わる。

カーター(マギー・Q)とゼーン(ジョナサン・リース・マイヤーズ)は、技術と判断力を兼ね備えた現場のプロ。
それぞれが“完璧ではないけれど頼れる”という絶妙なバランスで、チームにリアリティを与えています。

そして、初登場となるベンジー(サイモン・ペッグ)。
この男の存在が、映画に柔らかさをもたらしている。
シリアスな展開の中で、ふっと笑える。
観ている側の緊張をほぐす絶妙な立ち位置です。

イーサンがスーパーヒーローではなく、チームの一員として描かれていること。
それが『M:I-3』を次のステージへ押し上げた要素のひとつ。
彼ひとりでは解決できない。
仲間がいて初めて成り立つミッション。

でも同時に、この映画は“個の覚悟”の物語でもあります。
イーサンが守り抜こうとするのは、世界じゃない。
たったひとりの女性、ジュリア。

スパイ映画なのに、愛の物語なんです。
命を懸けても救いたい相手がいる。
その想いが、映画全体を温かくしている。

まとめ

『ミッション:インポッシブル3』は、シリーズの中でもっとも“人間”を描いた作品です。

1作目の冷たい知略、2作目のスタイリッシュな映像。
それらとはまったく違う温度を持った3作目。
ここで初めて、イーサン・ハントという人間の“心”が物語の中心に立ちます。

彼は完璧じゃない。
怒りに任せて行動し、失敗し、傷つきます。
それでも走り続ける。
それが彼の強さなんです。

トム・クルーズの演技も、この作品で大きく変わりました。
ただのアクションスターではなく、感情を背負った男としての説得力がある。
ラストで見せるわずかな笑顔に、これまでの戦いの重みが全部詰まっている。

『M:I-3』は、“世界を救うヒーロー”から“誰かを救う人間”への物語。
その変化が、このシリーズを息の長い作品にしました。

観終わったあとに残るのは、爆発音でもスパイガジェットでもなく、
静かな安堵と、もう一度誰かに会いたくなるような余韻。

完璧じゃないヒーローが、いちばん強い。
それを教えてくれる映画です。

作品情報

タイトル: ミッション:インポッシブル3
原題: Mission: Impossible III
公開年: 2006年
監督: J・J・エイブラムス
出演: トム・クルーズ、フィリップ・シーモア・ホフマン、ミシェル・モナハン、ヴィング・レイムス、マギー・Q、ジョナサン・リース・マイヤーズ、サイモン・ペッグ
配信: U-NEXT、Amazon Prime Videoほか
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