『インクレディブル・ハルク』感想・レビュー|逃げ続ける男が“怒り”と向き合うまでの物語

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あらすじ

科学者ブルース・バナー(エドワード・ノートン)は、軍の兵士強化計画の一環としてガンマ線を浴びる実験に参加します。
しかしその結果、彼は“怒り”や“ストレス”によって巨大な緑色の怪物――ハルクに変身する体質となってしまいます。

その力は破壊的で制御不能。
軍にとっては“最強の兵器”であり、ブルースにとっては“消したい呪い”。

ブルースは自らの体を治す方法を探しながら、軍から逃れ、世界中を転々とする生活を送っています。
しかし軍は執拗に彼を追跡し、兵士エミル・ブロンスキー(ティム・ロス)はハルクの力に魅せられ、自らも“究極の戦闘兵器”になる道を選んでしまいます。

逃げ続けるブルース。
彼を助けようとするかつての恋人ベティ・ロス(リヴ・タイラー)。
力に溺れていくブロンスキー。

そしてブルースはついに、自分の中にある“怒り”と向き合う瞬間を迎えます。

見どころ①:ブルース・バナーという“逃げながら戦う主人公”

ヒーロー映画といえば「強大な力を得て戦う」という構図が多いですが、ブルースは少し違います。

彼が持つ力は、望んで得たものではなく、自分の人生を壊した“呪い”。
だからブルースは戦いたくない。
でも、逃げても逃げても、その力はついてくる。

その葛藤が、ほかのヒーローにはない独特の切なさを生んでいます。

ブルースは孤独です。
怒りを抑えるために呼吸を整え、自分を追い込まないよう気をつけ、常に周囲から距離を置く生活を送っています。

「戦いから逃げているのではなく、破壊から人を守っている」。
そのスタンスが、彼をただの“怪物”ではなく、“心優しい科学者”として魅力的にしています。

見どころ②:エドワード・ノートン版バナーの繊細な演技

MCUのバナーといえばマーク・ラファロ版が有名ですが、今作のエドワード・ノートン版バナーは“静かな痛み”を抱えた雰囲気が特徴です。

言葉ではなく仕草で伝わる不安。
安らぎを見せた瞬間に訪れる恐怖。
自分が自分でいられなくなる苦しさ。

こういった細かい感情が、ノートンの演技で丁寧に描かれています。

特に、ベティと再会するシーンで見せる“ほっとした表情”。
あの一瞬だけで、「この人はずっと孤独だったんだな」と伝わってきます。

のちに俳優交代があるため、MCU全体の中では少し特殊なポジションの作品ですが、“ブルースという人物を理解するうえで非常に重要な一本”です。

見どころ③:ハルク vs ブロンスキー――肉弾戦の迫力が凄まじい

本作のクライマックスは、ハルクとブロンスキー(アボミネーション)の壮絶な肉弾戦です。

近年のMCU作品と比べるとCG技術は素朴ですが、そのぶん“重量感”が際立っています。

地面がへこみ、車が潰れ、建物の壁が吹き飛ぶ。
すべての破壊描写に“手応え”があって、画面から伝わる痛みがリアルです。

MCU特有の軽さやコミカルさがほとんどないため、戦いが本当に命がけで、
「ハルクって、こんなに恐ろしい存在なんだ」と実感させられます。

後のアベンジャーズで描かれる“制御されたハルク”を理解するためにも、“制御不能な怪物”としてのハルクを描いた今作は、見ておきたい作品です。

見どころ④:ベティとの関係が物語に温度を与える

ブルースにとって、ベティ・ロスの存在は“鎮静剤”のようなものです。

周囲から距離を置く彼にとって、ベティは唯一、素のままのブルースでいられる相手。
二人の距離感は恋愛というより“救済”に近いものがあります。

ベティがそっと手を添えるだけで、ブルースの表情がやわらぐ。
ハルクになって暴走しそうになったとき、ベティの声だけが彼の心をつなぎ止める瞬間は、とても静かで、切なくて、印象に残ります。

“怪物と美女”という記号的な関係ではなく、“傷ついた人と、その人を放っておけない人”という関係性として描かれているのが、今作の良さです。

まとめ

『インクレディブル・ハルク』は、MCU作品の中でも特に“孤独”と“葛藤”が色濃く描かれた一本です。

望まない力を持ってしまった主人公。
怒りで壊れていく人生。
逃げ続けるしかない現実。
それでも人を傷つけたくない優しさ。

ブルース・バナーというキャラクターの“根っこ”が詰まっています。

この作品を見ておくと、後のアベンジャーズや他作品でのバナーの選択や行動が、より深く理解できるようになります。

派手なスーパーヒーロー映画とは一味違う、静かで、苦しくて、でもどこか温かい作品。
MCUを公開順で追うなら、アイアンマンの次にぜひ押さえておきたい重要作です。

作品情報

タイトル インクレディブル・ハルク
原題 The Incredible Hulk
公開年 2008年
監督 ルイ・レテリエ
出演 エドワード・ノートン、リヴ・タイラー、ティム・ロス、ウィリアム・ハート ほか
配信 U-NEXT、Amazon Prime Video ほか
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